鯉名の銀平

1961年8月28日(月)公開/上映時間1時間20分 大映京都/白黒シネマスコープ
併映:「雑婚時代」(田中重雄/叶順子・船越英二)
| 企画 | 高森富夫 |
| 監督 | 田中徳三 |
| 原作 | 長谷川伸「雪の渡り鳥」 |
| 脚本 | 犬塚稔 |
| 撮影 | 武田千吉郎 |
| 美術 | 太田誠一 |
| 照明 | 加藤博也 |
| 録音 | 大谷巌 |
| 音楽 | 斎藤一郎 |
| 助監督 | 国原俊明 |
| 出演 | 中村玉緒(お市)、成田純一郎(爪木の卯之吉)、大辻司郎(徳三郎)、阿部徹(帆立の丑松)、名和宏(黒目の又五郎)、石黒達也(五兵衛)、荒木忍(大鍋の島太郎)、水原浩一(岩角の多治郎)、市川謹也(洞穴の作蔵)、寺島貢(渋谷の百助)、玉置一恵(三五郎)、香川良介(江波太十郎) |
| 惹句 | 『潮風を斬る怒りの長ドス!涼風を呼ぶ海上の殺陣!股旅姿でまたイカス、雷蔵痛快なぐりこみ!!』『命をかけて想った女に、惚れたともらさぬ男の意地が、冴えて最後のなぐりこみ!』『股旅ものの代表名作!魅力の配役!清新の映画化!剣と恋の颯爽巨篇!』 |


★解 説★
この『鯉名の銀平』は、さきの『沓掛時次郎』に引き続いて、颯爽、市川蔵蔵が、長谷川伸の名作戯曲に再び挑む本格的股旅時代劇です。生れて始めて知った真実の恋の為に、“鬼ともなり蛇ともなった”銀平だが、矢張り、最後の瞬間には、実の兄弟のように親しんだ弟分は殺せず、二人に仇なす悪人共をたたっ斬って去って行くという、股旅ものには珍しく血の通った人間像だが、これを最近、とみに鋭さを増して来た演技力で雷蔵が、いかにこなすか、「個性的な人物と西部劇的アクションの異色娯楽股旅篇に仕立てたい」と語る大映京都の俊鋭、田中徳三監督のメガホンとともなって、充実した魅力篇が期待されます。
キャストは、鯉名の銀平に市川雷蔵、お市に中村玉緒の他、銀平と兄弟分でお市を争う爪木の卯之吉に、大映時代劇のホープ、成田純一郎が抜擢され、この大役を機会に一挙にスタアダムに送り込もうとの寸法ですが、本人もファイト満々、連日、懸命な演技を見せて話題を呼んでいます。この物語のテーマを描くこの新鮮なトリオを助けて、大辻司郎、石黒達也、荒木忍、阿部徹、寺島貢らの芸達者が顔をそろえて作品に厚みを加えています。
内容は、鯉名の銀平と爪木の卯之吉の二人のやくざが、幼なじみの一人の女、お市を恋した為に、それまでの兄弟のような仲が、一夜にして仇敵と変じ、折から下田港の縄張りをめぐって乗り込んで来た帆立一家との血生臭い乱闘の間に、女をめぐって男の意気地が火花を散らすという痛快篇です。
スタッフは、監督に田中徳三、撮影に武田千吉郎、音楽に大谷巌、美術に太田誠一、照明に加藤博也と粒よりの精鋭が、意欲満々にスクラムを組んでいます。(DAIEI PRESS SHEET No. 1022より)
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◆製作意図: 一人の女を中心にした親友同士の相克と、悲しく美しい愛情を描き度い。
★物 語★
鯉名の銀平は、かって大鍋一家では相当に売りこんだ顔だったが、今では、仲のよい卯之吉とともにかたぎになり、船大工として働いていた。二人は、駄菓子屋の五兵衛の家にで入り している間に、彼の娘お市に惚れるようになっていた。銀平はお市の気持ちをたしかめようとしていたが、彼女ははっきりした返事をしない。
下田港の縄ばりをねらって、親友丑松を先頭に帆立一家が横車を押してきた。しかし、大鍋の親分は、かたぎになった今ではと、子分どもを押さえた。五兵衛は単身なぐりこもうとするが、これを知った銀平は一足先に帆立一家に向った。決闘の場所へ卯之吉が姿をみせた。彼はお市と祝言をすませてきたのだ。銀平は嫉妬に狂ったが、危い卯之吉を救って姿を消した。−
それから四年、まだお市のことを忘れられない銀平は、下田に帰ってきた。大鍋親分が死に、今は下田一帯、帆立一家がわがもの顔にのさばっていた。銀平は、五兵衛のあとをついで商売をしている卯之吉と、お市を物かげから見た。その時、帆立の子分が現われ、店をこわして帰っていった。表に出たお市は銀平を見つけた。この二人を見た卯之吉は、嫉妬から帆立一家にかけこみ斬りこんだ。が、しくじって海中にとびこむ。銀平がかけつけ子分どもを斬り払った。そこへはいあがった卯之吉が丑松を倒した。
銀平は目明しの姿を見ると、丑松殺しの卯之吉の罪を引きうけ、お縄をうけた。俺が犯人だという卯之吉を、銀平は手で制し、幸せに暮しなといって引かれていった。(キネマ旬報より)
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鯉名の銀平は、以前、伊豆下田をとりしきっていた大鍋一家では、相当に売り込んだ顔だったが、親分の島太郎が、渡世の足を洗って、網元になったいまでは、兄弟のように仲のよい爪木の卯之吉とともにかたぎになり、船大工として働いていた。ところが、この二人は、同じ身内で、いまは駄菓子屋を営んでいる五兵衛の家に出入りしている間に、彼の娘お市にいつの間にかホレてしまい、互に相手の恋心を感づいていた。銀平はことあるごとにお市の気持ちを確かめようとするが、お市ははっきりした返事を与えない。
ところが、下田港のなわばりをねらって、横車を押し、親分丑松を先頭に帆立一家がのり込んできた。しかし大鍋の親分は、「売られたケンカを器用に買ったのは昔のこと。かたぎになったいまは、一切手出しはならねえ」とはやる子分どもを押し止める。
一徹な五兵衛は、親分の態度にゴウをにやし、単身、帆立一家になぐり込もうとするが、それと気どった銀平は、ひと足先に、帆立一家の陣どる宿屋に談判にゆく。しかし、強気の丑松は、頭から銀平を相手にせず、あげくのはては、頭に酒をブッかけるが、銀平は、こみあげるいかりをグッとおさえて、五兵衛の家に帰ってくる。ところが、卯之吉とお市の二人が、ひそかに、ほれ合っていることを親の目で知っていた五兵衛は、帆立とのきり死にを覚悟の前に、この二人に仮祝言をあげさせているところだった。これをかいま見た銀平は、シットの心に追われて、さきほどのいかりを晴らす決闘を申し入れる。
半刻後、約束の場所で身支度する銀平の前に、それをさとってきた卯之吉が姿を見せた。銀平のお市に対する恋心ははげしく、さっきかいま見た五兵衛の家での仮祝言の光景に、疑心暗鬼な銀平は、くどく卯之吉に問いただし、とうとう彼の口から真実を聞き出して呆然とする。シットにくるった銀平は、「きょうかぎりオレと手前は敵同士だ」とさけび、卯之吉も怒り出す。
おりから姿を見せた帆立一家の四天王たちと、二人の間にたちまち死闘がくりひろげられるが、腕の立つ銀平は、彼に向かって来た子分どもを、またたく間にきり倒す。しかし手強い相手に向かった卯之吉は、ともすれば押され勝ちでしばしば危機におちいる。二人の行方を案じてかけつけたお市は、銀平に助勢を乞うが、彼は冷たく腕組みしてかたわらから見守るばかり。銀平の心を知った卯之吉は、死力を出して敵をやっつけようとするが、とうとう、刀をはねとばされて万事休す。この時お市の魂の消えるような声を耳にした銀平は、われ知らず、卯之吉の前におどり出て、まさに刀をふりおろさんとした敵をきった。刀をおさめた銀平は、「お市っちゃんのために命をだいじにしろよ」と卯之吉にいいすてて、どこへともなく走り去った。
それから四年・・・旅先でも、似た顔を見るだけで、胸を突かれるほどまだお市を思っている銀平は、知らず知らず故郷の下田に帰ってきた。銀平が土地を売って間もなく、大鍋の親分が死に、いまは、下田一帯を帆立一家がわがもの顔にのさばっていた。なつかしい五兵衛の家に足を向けた銀平は、物かげから、いまはすっかり堅気になって五兵衛のあとをついで、商売をしている卯之吉と人妻らしく成熟したお市を見つける。その時、帆立の子分がやってきて、下手に出る卯之吉をよいことに、無理難題のあげく、店をたたきこわして帰っていく。くやしがるお市に、「オレは、どうせ銀平ほど強くないからな」とヒニクるような卯之吉。たえられなくなったお市は表に走り出るが、そこで銀平を見つける。お市の姿を追って来た卯之吉は、この二人を見てシットにかられ、ドスをのんで意を決して帆立一家に走った━。
(サンスポ・大阪版 08/13/61)
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市川雷蔵は『沓掛時次郎』につづいて、同じ股旅もの長谷川伸の名作『鯉名の銀平』に出演中である。
この作品は、戦前から阪妻、長谷川一夫、大谷友右衛門らで、再三映画化され、こんどの雷蔵で実に六回目。長谷川伸の原作ものではおそらく、最高のレコードだろう。
雷蔵は「大先輩のおやりになったものだけに、いろいろとやりにくい。舞台写真やスチール写真なら、演技の型の参考資料は、たくさんありますが、こんどの場合はことさら、こういうものはみずにやってみようと思っています。これまでは、やくざ姿のイキさ、さっそうとした形の美しさを主体に、むちゃくちゃに強い英雄的な主人公の活躍をえがいたものですが、こんどは、監督の田中さんとも打ち合わせして、生まれてはじめて知った激しい恋のために、兄弟のように親しんできた弟分をたた切ってまで、恋を得ようとする銀平の激しい性格にポイントをおき、銀平の個性をえがきだそうという意図だからです」と新しい銀平創造にファイト満々。
監督の田中徳三は「登場人物三人の間の恋心がテーマで、この三人の個性が、それぞれはっきりしており、思い切った性格づけのやれそうな素材です。そのために画面でも、陰影を強く出して、効果をねらいます。しかし前後二回の乱闘シーンには、西部劇的なリアルさで痛快な異色時代劇に仕立てたい」と抱負を語っている。
原作には銀平は鯉のイレズミをしていることになっているが、いろいろとデザインを集めて研究していた雷蔵は、ようやく適当なのをみつけ、このほど、セット入りに間に合わせた。
「全身にしようかと思いましたが、イヤラシくなるといけないので、ウデにちいさくしました。これなら、ごあいきょうでしょう」と笑いながら、サッと片ハダぬいで右腕の“鯉”をのぞかせた。(サンスポ・大阪版 07/26/61)
雪の渡り鳥
作詞:清水みのる 作曲:陸奥明 編曲:福島正二 唄:南春夫
| 一、 |
| 合羽からげて 三度笠 |
| どこを塒の 渡り鳥 |
| 愚痴じゃなけれど この俺にゃ |
| 帰る瀬もない |
| 伊豆の下田の 灯が恋し |
| ニ、 |
| 意地が生きるが 男だと |
| 胸にきかせて 旅ぐらし |
| 三月三年 今もなお |
| 思い切れずに |
| 残る未練が 泣いている |
| 三、 |
| 払い除けても 降りかかる |
| 何を恨みの 雪しぐれ |
| 俺も鯉名の 銀平さ |
| 抜くか長脇差 |
| ぬけば白刃に 血の吹雪 |
鯉名の銀平 作詞:万屋太郎 作曲:市川竜之介 編曲:市川竜之介 唄:小林進 一、 |
| 住めば都と 言うけれど |
| ねぐら定めぬ この俺にゃ |
| 浮き寝の床が 似合うのさ |
| 国を出てから 彼是四年 |
| 伊豆の下田の 灯り火が |
| 今も瞼に 浮かんで来るよ |
| 台詞: 今頃お市さん達は どうしているかなぁ 幸せに暮らして 居るだろうか チェッ 未練だよなぁ 一度はきっぱり 諦めた筈なのによぅ |
| ニ、 |
| 男渡世の 片意地で |
| 好いた女(ひと)には 告げられず |
| 未練の渦が 沸き起こる |
| 影で祈って 彼是四年 |
| 伊豆の下田の 漁火が |
| 見える処に わらじを脱ごう |
| 台詞: おう おう どこのサンピンか知らねぇが お市さん達には 指一本触れさせねぇ 今日のオイラは 気が立っているぜい 命の要らねぇ奴は 覚悟して かかって来な |
| 三、 |
| 惚れた女の 幸せを |
| 壊す奴らは 許せねぇ |
| 是しか出来ぬ やくざ者 |
| 名乗りますまい終わったことだ |
| 伊豆の下田の 遠灯り |
| 雪がちらつき 霞んで見える |


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雪景色は、全てを覆い隠し、まっさらな気持ちに返るという心象を醸し出す。だから惚れた女を兄弟分に譲って縄目を受ける、鯉名の銀平は「雪の渡り鳥」でなくてはならない。長谷川伸の股旅ものは名の売れた親分でもヒーローでもない。義理人情にもろくいつもひとり貧乏くじを引いているようなうらぶれた渡世人だ。大衆はそれに共感を覚えるのである。 「雪の渡り鳥」鯉名の銀平は阪妻も味があったが、抒情的ムードを持つ林長二郎が適していて、戦後は長谷川一夫になってリバイバルし、市川雷蔵も演じた。( 平凡社刊、別冊太陽「時代小説のヒーロー100」永田哲朗より )
詳細はシリーズ映画、その他のシリーズの『股旅もののヒーローたち』参照 |


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